受賞事例の講評

第5回 風景デザインアワード 講評|2023

朝見の条里水田

受賞タイトル

「悠久の人の営みが織りなす奇跡の生態系 賞」

講評

 朝見地区は、櫛田川下流域の低平地に300ha以上の規模で平安時代の条里地割が現存する、全国的にみても稀有な水田地帯である。悠久の歴史を感じさせる素掘りの土水路は緩やかな曲線を描き、畔の草花や畦畔木のモザイクが美しい田園風景を織りなしている。

 条里制に沿った用排兼用の土水路網は水田との水位差がなく、降雨時は一面が氾濫原となる。それは生きものが自由に移動できる生態系ネットワークとして機能し、氾濫原環境に適応したトウカイコガタスジシマドジョウ等の地域固有種をはじめ、ウナギ・カエル・カメ等の多様な生きものを育む。また、洪水を広く面的に受け止める流域治水の機能も果たしている。

 営農者の減少等から、かつて圃場整備が計画されたこともあったが、農家の方々は誇りを持ってこの歴史ある風景を守ることを選んだ。土水路の草刈りや泥上げの手間を「関わりしろ」と捉え、農家・大学・博物館と連携した田んぼアートや子どもたちの体験学習のフィールドとして利用しながら条里水田の維持管理を楽しんでいる。

 稲作という古代からの人の営みそのものが、地域固有の生態系の保全や治水にも貢献する、自然共生の風景の規範として高く評価された。

ポイント

  • 千年つづく稲作の営みと自然が共生し維持される地域固有の生態系
  • 地域の人々の選択により守られた歴史的田園風景
  • アートや教育の場として水田の新たな恵みを利用しながら維持管理を楽しむ取組

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 酒井奈美

波佐見川・水辺の楽校

受賞タイトル

「シーボルトの川づくりが育む学びの水辺 賞」

講評

 波佐見川水辺の楽校は、波佐見川の約2㎞区間に整備された親水空間である。

 水辺の楽校計画にあたっては、40年前の川遊びの原体験の再生を目標に、官学民が模型を囲み議論を重ねプランを作成。多自然川づくりで片岸のブロック護岸を取り払い緩傾斜化し、子供がアクセスしやすい親水性と、貴重なタナゴ等の多様な生きものが賑わう水辺のエコトーンの両立に成功した。

 楽校では、地元の学校や市民団体が連携し、伝統的な手づかみ漁や魚捌きの体験を通して川に親しむ活動が続けられている。川の安全の守り神である河童石と大人に見守られながら、子どもたちは河童さながらに魚を追いかけ、“センス・オブ・ワンダー”を育むことができる。

 200年前に来訪した博物学者にちなみ、波佐見川の豊かな魚類相の歴史的な価値を伝え、将来に残すべき河川環境を学ぶ「シーボルトの川づくり塾」、波佐見焼を使った看板、ヤギによる草刈りなど、地域の特色を活かした取組も続けられている。また、楽校で学んだ子どもたちは成長し、水辺のクリーン活動や次世代の体験活動を支えている。

 子どもも大人も安全に川の自然に親しみ学ぶ、豊かな水辺の風景づくりの規範として高く評価された。

ポイント

  • 河童石やシーボルトといった地域ゆかりのシンボルを活かした取組のデザイン
  • 官学民が協働した川づくり技術による安全な親水空間と良好な水辺環境の両立
  • 子どもの豊かな自然体験を支える世代間の継続的な関わり

担当:第5回風景デザインアワード選考委員長 酒井奈美

菊池市かわまちづくり水辺広場

受賞タイトル

「まち・自然・世代をつなぐ小川の飛石と若者のチカラ 賞」

講評

 市街地に位置する隈府地区と田園地域に位置する玉祥寺地区。その間を自然の迫間川がながれる。川には一般に、地域をつなぐ面とへだてる面とがある。この川は大きくない。深くもない。でも以前はどちらかというと、両岸の地区をへだてていたようだ。しかし地域住民・行政・専門家からなるさまざまな主体のかかわる「菊池市かわまちづくり事業」の取り組みが、両地区をつないだ。川中の飛び石でつないだ。

 それはたんなる交通利便の手段ではなく、街から自然地へ、そして農村から都市へと変化する川辺の風景を、五感でたのしむ視点場だ。それはまたたんなる両地区の距離の短縮の方策ではなく、世代の異なる人と人とをつなぐ紐帯だ。ほどよい大きさのこの水辺で毎年開かれるようになった「かわびらき」は、ちいさな子どもたちを安全に河水にいざない、心地よい水辺体験にみちびく。地元の高校生たちの参入が、この事業にいきおいを与える。つぎの世代へのつながりを支える。

 飛び石は「つなぎ石」とよばれる。まち、自然そして世代をつなぐのである。つなぎ石の設えに、高校生たちの力が加わった。こうして生き生きとした、独自の風景と、あらたなコミュニティが生まれたのである。

ポイント

  • 『つなぎ石』の多様な領野をむすぶはたらき
  • 若い世代・高校生のかわまちづくりへの参入のいきおい
  • 川と街/農地の有機的な関係の形成

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 山下三平

樋井川ビーチ

受賞タイトル

「草を刈り 川でつながるコミュニティ 賞」

講評

 「樋井川ビーチ」というネーミングには、河川空間を楽しく利用できる喜びだけでなく、生い茂った草を繰り返し刈って「場」を開いた人々の矜持までもが、よく表れている。

 2009年の洪水を契機に流域治水を目指した市街地内河川の維持管理活動は、身近で魅力的な場所を見つける「樋井川さんぽ」という地域団体のイベントから始まった。こうして見出された場所を楽しく使いやすくするための活動が継続している。地域団体と大学生による環境学習や草刈・清掃などの活動は、行政では手が回らなかったきめ細やかな環境管理へと発展している。また、活動によって創出したオープンスペースは、地域住民の散歩や子どもたちの水遊びといった日常の楽しみの場を豊かに提供している。

 このように、河川と地域コミュニティとの相互関係構築や環境管理の責任意識の共有にまで及ぶ「樋井川ビーチ」の存在の意義は広くかつ深い。典型的な掘り込み形式の河道を有する都市河川において、草刈によるビーチやテラスとしての活用から、流域治水につながる管理活動までを実践している。民・学・産・官の協働により、河川を取り巻くコミュニティ構築にまで結び付けた風景デザインの規範として高く評価される。

ポイント

  • 流域治水を目指した河川環境管理に対する責任意識の共有と実践
  • 河道の草を刈って日常の楽しみの「場」を開いた維持管理活動
  • 民・学・産・官の協働による河川を取り巻くコミュニティ構築

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 徳永哲

石狩海岸の自然風景

受賞タイトル

「大きな自然と共創する久遠の取り組み 賞」

講評

 遥か大雪山系の山々を源流とする石狩川の最下流域には、原生的な砂浜海岸が延長25kmにわたって帯状に連なっている。この大自然の営為がもたらした海岸の価値に気づいた人々は、これまで享受してきた自然の恵み(多様な生態系サービス)とその環境要因に着目した。砂浜~海岸草原~海岸林へと移り変わる独特の成帯構造を有する海岸の自然風景は、生活環境に対して防災・減災への役割を果たしている。

 これらを踏まえて、都市計画の面では、周辺地域の無秩序な開発を抑制するための土地利用コントロールを行っている。また、環境保護・環境教育の面では、ハマナスなどの海浜植物、イソゴモリグモなどの希少生物の保護や啓発活動が、市民や研究機関と行政が連携して活発に行っている。さらに、ハマボウフウの食べ方講座や海岸植物の活用方法を考えるなど、地域の文化的活動にもつながるよう配慮している。

 大都市(札幌市)近郊における海岸自然風景の移り変わり(エコトーン)を、壮大な自然の循環、開拓の歴史、未来への継承といった、久遠の時間軸に位置付けた取り組みは、風景デザインの規範として高く評価される。

ポイント

  • 大自然の営為がもたらした風景との向き合い方
  • 大都市近郊における海岸自然風景の保護と活用
  • 市民や研究機関と行政等が連携した活動の展開

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 徳永哲

ため池から市民に親しまれる水辺空間への変容

受賞タイトル

「まちの暮らしと変貌するため池の役割への期待 賞」

講評

 福岡には古代より多くのため池が存在する。ため池の水は稲作に用いられる。しかし時代は移り現代は、農業用水源としてのため池の役割は減少した。その一方、都市化が進む中、市街地にほど近い貴重な親水空間としてのため池に注目があつまるようになった。そうした人々の憩いの場という役割に加え、自然生態系の基盤や美しい風景要素の側面が重要になってきた。

 農業用ため池はまた、治水用のため池へと転用が図られている。近年、温暖化豪雨対策として、さまざまな土地利用で雨水の流出抑制が求められるようになった。制度としての流域治水関連法も整備された。ため池のもつ流出抑制機能の重要度が増しているのである。

 多くのため池のなかには、その管理が十分でなく、劣化が進んでいるものもある。治水用ため池としての整備が、機能性に特化して風景を損なうケースもないわけではない。これからのため池のあり方には、さまざまな課題が含まれている。

 それでもなお、多くのため池には、流域の水循環、水環境、水辺環境の健全さに貢献するはたらきがますます期待される。ため池はいわば風景のリンパ節だ。群としてのため池の風景にはいま、大きな期待がかけられているのである。

ポイント

  • 多くのため池の存在と農業用から治水用と市民の生活の質向上への転換
  • 流域治水への期待
  • その過程での機能性偏重への危惧と克服への期待の陵駕

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 山下三平

カメリアパーク

受賞タイトル

「まちの大家さんとみんなが風景を愛し育てる小さな広場 賞」

講評

 福岡市中央区小笹という都心にある集合住宅「カメリア小笹」の一角に設けられた、この小さな広場では、まるでまちの大家さんが地域の公民館を営むような大きな傘の下、集合住宅の住人のみならず、地域コミュニティに属する老若男女が、物理的にも、精神的にも安心・安全を感じながら集うことができる。この広場には、大人から子供まで参加したいと思う人々が、自分たちが安心して暮らせる居場所を共同作業によって、自ら設えることができる拡張性が備わっている。鴻巣山という自然に抱かれた小笹地域の風景を、子どもの頃から、地域コミュニティのたくさんの方々と交じわることで、愛し育てることができる場所である。シビックプライドを涵養でき、持続可能性に溢れていることが評価された。

ポイント

  • カメリア小笹の住人のみならず地域の多様な人々が集うことができる安全・安心
  • 関わる人々が共同作業によって,自ら居場所として設えるセルフビルドの実践
  • 鴻巣山に抱かれた地域の風景を愛し育てることができるシビックプライドの涵養

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 田中尚人

高千穂通りナチュラリスティック花壇

受賞タイトル

「四季を楽しめる みんなの花みちガーデン 賞」

講評

 「みち」に対して一人一人が花植えや清掃などをできる範囲で自主的に実践しておられる人は全国各地にいる。

 一方、高千穂通りの花壇は、花植えの配置について、関係者が何度も勉強会を重ね、ナチュラリスティックな植栽方法を取り入れたガーデンである。一年草だけではなく、宮崎生まれの多年草固有種を採用し、宮崎の人の心を「みち」に吹き込み、四季を通して姿を変えながら、通りを利用している人々の心を豊かにしているところが特徴だ。

 それも老若男女、世代を越えた人たちが集い、居心地が良く歩きたくなるようなウォーカブルな空間づくりを、楽しみながら創り出している。

 今後の活動の継続や参加者の輪を広げるために、SNSを活用した発信や交流を深めるイベントなど、工夫しながら未来につなごうとしている。四季を通して楽しめる、街なかの風景をみんなで育てている取り組みは、風景デザインの規範として高く評価される。

ポイント

  • 宮崎生まれの多年草固有種の採用
  • 四季をとおりして姿を変える花みちガーデン
  • 世代を越えた人たちがつながり、居心地の良い空間を創り出す

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 石橋賢一

閑静な住宅街の古民家改修の飲食店BUTCHER福岡

受賞タイトル

「地域の風土を閉じつつ開く結界建築 賞」

講評

 応募者は、福岡市の都心である天神まで歩いて行ける風光明媚な風致地区である対象敷地を丁寧にサーベイし、森から菅原神社へとつながる地域の風土を読み解いている。外の街並みに対して、内に閉ざす傾向にある閑静な住宅地の立地は、商業建築にとって決して有利な条件ではない。さらに風致地区の厳しい規制もあり、古民家という地域の文脈を継承する資源は有するものの、内外を「閉じつつ開く」商業建築を設えることは難しいと言える。そのうえで豊富なデザインボキャブラリーに照らし合わせ緑と塀を組み合わせ、商業建築の殻を破るコンセプトメイキングを行い、「領域弁」という生きたコンセプトを得た。周囲の街並みと飲食空間を閉じつつ開く領域弁としての機能を建築化し、いわゆる結界をデザインした風景デザイン手法が高く評価された。

ポイント

  • 対象敷地を丁寧にサーベイし菅原神社へとつながる地域の風土を読み解いている
  • 閑静な住宅街が有する、商業建築に対する課題を設定しコンセプトを提示している
  • 領域弁として周囲の街並みと飲食空間を閉じつつ開く結界建築として成立させている

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 田中尚人

長崎県松浦市の高生垣「ひゃーし」

受賞タイトル

「守り抜いてきた 緑の造形美 賞」

講評

 この地域にはユニークで手入れの行き届いた高生垣が点在する。それが江戸時代後期から現代にいたるまで、広く維持され続けていることには興味が尽きない。まさに、地域の誇りであり、継続的な維持の取り組みには頭が下がる。

 高生垣には防風や目かくし、自然の空調機能など様々な機能があるが、武家の威厳を象徴する門構えとして設置されたと推察される事例も散見されるという。高生垣と石垣との調和には、造成当時の構成が残されている可能性もある。高生垣と庭、屋敷はいずれも当時を思い起させてくれる貴重な歴史的・文化的な遺産である。松浦地域固有の、価値の高い風景といえる。

 高生垣の入口の形も、トンネル状につながっているものや、つながっていない鉤形状、円柱状のものなどがあり、こうした様々な緑の造形美は魅力的である。伝統的な文化を継承する市民の意識の高さが守り抜いてきたこの美しいかたちは、風景デザインの規範として高く評価される。

ポイント

  • 守り抜いてきた高生垣の造形美
  • 伝統的な文化を継承する市民の意識の高さ・誇り
  • 当時を思い起させてくれる貴重な歴史的・文化的な遺産

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 石橋賢一

花の木公園レインガーデン

受賞タイトル

「コンサマトリーな市民普請の公共圏 賞」

講評

 以前の花の木公園は降った雨水の多くが敷地の外に流れ出していた。地面が利用者によって踏み固められていたので、雨水が浸み込まなかったのだ。そこに注目した地元の人たちが、行政と連携しつつ、自分たちの手で雨庭をつくることにした。この雨庭は公共施設である公園に、市民の土木作業・市民普請でつくられたところに特徴がある。まさに公的な制度に私的なはたらきかけが図られる空間、「公共圏(J.ハーバマス)」の生成だ。

 雨庭はその場所の流出抑制によって、それをふくむより広い地域の安全に寄与する意義がある。この雨庭をつくる作業をした人たちは、つくる前の調査、その後の計画・設計・維持管理そしてパフォーマンス・モニタリングにも関わっている。植栽の手入れも行っている。しかもそれが負担というよりは、むしろよろこびなのだ。

 雨庭は流域治水に貢献する。だからその手段である。しかしそれだけでなく、自律的な雨庭とのかかわりは、人々がそのこと自体をたのしむという、自足的・コンサマトリー(T. パーソンズ)な活動だ。この活動に刺激を受けた近隣の人々もいるという。こうした小規模・自律・分散型水管理の広がりが、水循環の健全化をもたらすのだ。

ポイント

  • 市民普請が公共圏をととのえる
  • いまをたのしむ流域治水に参与する
  • 実物がさらに市民をうごかす

担当:第5回風景デザインアワード選考委員 山下三平

第4回 風景デザインアワード 講評|2021

福島ガーデン

受賞タイトル

「まち庭日和 賞」

講評

 八女福島では、伝建地区を中心に空き家を活用した移住促進や飲食・物販・宿泊施設への用途変更が進むなど、住民主体のまちづくりが展開されてきた。その一方で空き地を活用した駐車場も増えてきている。福島ガーデンは、オモテの旧往還道沿いに面して細長い奥行を有する駐車場の最奥部に位置し、地区住民の生活に根差したウラの空間に潤いをもたらしている。街区の中央部に位置しながらも三方向の行き来が可能な小道でオモテとつながっており、園芸菜園のような表情が作業の楽しさや住民交流の豊かさを物語っている。柔らかな語調の方言で「日和のよかなー」といった声が響き、和気あいあいと集う住民の輪をつなぐ場‐協働の庭‐として大きな存在感を放っている。すでに10年にわたって維持管理をリードしてきた高齢住民の矜持に支えられた住民交流が、まちづくりのDNAを次世代に継承していく活動の一つとなるものと期待できる。建造物に注目が偏りがちな伝建地区にあって、屋外環境の維持管理という「もう一つのテーマ」を通じて、コミュニティがさらに醸成されていく予感に満ちている。

ポイント

  • 町並み保存に取り組む地区における民有地の空き地活用の好事例である
  • 町内会の高齢者住民が自主的に協力して園芸を楽しみ、丁寧に維持管理している
  • 住民同士の交流の場として日常的な支え合いや見守りにつながっている

担当:第4回風景デザインアワード選考委員 徳永哲


北原公園

受賞タイトル

「クリエーティブな境界の融合と公園愛 賞」

講評

 河川沿いの公園が河川管理用道路で河川空間と明確に分けられていて残念に思うことがある。しかし北原公園では両者の境界が融合し、堤防の法面が公園の一部となる創造的な設計が行われた。その象徴が法面に設えられた、青く幅広のすべり台だ。こうしたユニークなデザインの実現には、設計者・行政の創意工夫と、人々の希望についての的確な共有があった。こうして公園利用者は河川管理用道路を通って自由に河川空間を回遊することができ、この道路を行き交う人々は、気軽に公園に立ち寄ることができるようになった。

 だが、自由度が高まれば利用に伴うリスクが増すことになる。それに対して外からの規制が増えれば、河川と公園をともに難なく行き来できるせっかくのアメニティが損なわれる。しかしこの公園では愛護会会長の日ごろからの手入れや気配りすなわち“公園愛”が、利用者とりわけ子供たちに知られ共有されている。このことで自律的なルールが生まれ、安全な使い方が浸透している。

 空間の融合ならびに自由と責任のデザイン規範として参照する価値が高い公園だ。

ポイント

  • 堤内地の公園と堤防・河川空間との境界の融合
  • すべり台の象徴性
  • 公園愛護会の会長の“公園愛”による利用ルールの自律

担当:第4回風景デザインアワード選考委員長 山下三平


サクラマチ スポンサー花壇

受賞タイトル

「植物が街と人の風景を育ててる 賞」

講評

 交通センターの再開発など、新しい都市景観が創出されつつある熊本の中心部の県道28号線(電車通):辛島交差点〜銀座通交差点区間、延長500mの植栽帯の改善事業である。熊本において、初めてガーデンデザイナーが監修した植栽帯で、私たちが見慣れた街路植栽とは異なる、世界にも誇れる風景を創出している。宿根草と球根植物が、開花時期の空白をお互いに埋めるように、デザイナーによって適切に配植されている。一般の花壇植栽に用いられる一年草とは異なり、宿根草はうまく手入れされれば、何年も成長と冬の休眠を繰り返し、花のない冬でさえも,季節にあった風景を街中につくりだす。また、この花壇の管理は基本的に若いボランティアたちで行われていることも特筆すべき点である。花々が街を彩るだけではなく、彼らが花壇の手入れをする姿もまた、街の風景となっていくであろう。この花壇は、植物が主役となって、街と人の風景を育てていると言って良いのではないかと思う。街路植栽に新しい形を示したという点で、未来に向けた規範的な風景を創出しており、風景デザインアワードに相応しい。

ポイント

  • 熊本の中心部の様々な整備と連携した街路植栽の改善事業であること
  • 宿根草を主とした新しい街路植栽の風景を創出していること
  • 若いボランティアによって丁寧な管理が行われていること

担当:第4回風景デザインアワード選考委員 星野裕司


第三空港線(熊本)

受賞タイトル

「熊本のシンボルとしての道と街路樹の持続が創り出す緑の誘導路 賞」

講評

 第三空港線は、阿蘇の西側に位置する高遊原台地を南北に走り、県北地域から空港へのアクセス道路として重要な役割を担っている。空港へのアクセス道路は、速達性が優先され無機質となりがちなところを、街路樹にケヤキを使うことで周辺の風景に見事に溶け込ませ、空港への速達性の向上と風景への配慮を見事に両立させている。地域の風景を守るために、沿線の土地利用の規制に加え開通から30年続いている丁寧な管理の持続により、熊本を代表する阿蘇の風景の一つへと成長している。阿蘇の雄大な自然に馴染んでおり、この場所にこのような道路をつくろうとした計画そのものの素晴らしさも感じられる。周辺からの眺望へ配慮するとともにランドマークとしての役割、さらにはドライバーにとって走りやすい道路となっており、熊本を代表するシンボル的ロードとして位置づけられる。

ポイント

  • シンボルとしての道路の30年続く丁寧な維持により阿蘇らしい風景へと成長
  • 風景を守るための規制の活用
  • 道路機能の確保と周辺環境への馴染みの両立

担当:第4回風景デザインアワード選考委員 鈴木昭人


菊池市民広場

受賞タイトル

「世代を越えてまちとつながる癒しの新広場 賞」

講評

 菊池市民広場は、隈府市街地に接し歴史ある広大な緑地であるが、利便性の低下等が課題となっていた。そこで、公民連携のまちづくりとして市民意見を取り入れリニューアルされた。北は城山の緑や桜を借景に自然と季節を感じられる芝生広場、西は菊池一族を祭る菊池神社の参道との接続、南は菊池旧市街地との回遊拠点・玄関口として迎える足湯、東は国道・菊池温泉街からアクセスしやすい遊具や飲食スペース等、隣接する地域資源とのつながりを実現するデザインが工夫されている。また既存施設群は活用しながら回廊・天蓋付き中庭でつなぎ機能を高めている。四方に開かれた広場は誰もが立ち寄りやすく、市民の日常利用も増えている。また、地元高校生ら市民による「菊池市民広場ファンクラブ」が設立され、市街地の回遊性向上、地元と観光客との交流、にぎわいのある広場の風景を維持・継承する活動が続けられている。この広場がまちと人をむすぶ駅として新たなにぎわいや癒しの風景を生み、世代を越えて市民に愛され続けることを期待したい。

ポイント

  • まちづくりとして広場を位置づけ、隣接する地域資源とのつながりを実現するデザイン
  • 既存施設群を作り変えるのではなく活かしながら機能を高める工夫
  • 高校生ら市民のファンクラブにより広場の未来を共に考え、にぎわいのある風景の維持継承を図る取り組み

担当:第4回風景デザインアワード選考委員 酒井奈美

第3回 風景デザインアワード 講評|2020

つづら棚田

講評

 県道から急勾配の森の中を抜けた先に、急に視界が開けて、石積みの起伏に富んだ棚田の全景が眼前に現れる。耳納山系の中山間地、福岡県うきは市新川地区にある「つづら棚田」は、標高約450mに位置し、約6ha、300 枚の棚田を指す。この棚田は、寛政6(1794)年には完成したとされ、人里離れ、戦後の区画整理事業の影響を受けずに、等高線に沿った棚田の土地所有形態が、現在まで継承されてきた風景のオリジナリティが高く評価された。北向きの傾斜地で、棚田の中心を葛篭(つづら)川が流れ、開墾した際に出土する安山岩を野面積みした石積みの棚田が1/7 の勾配で連続している。初夏には、竹樋を縦横に巡らせた特徴的な農耕景観がみられ、棚田の上段から中段、下段と順番に、集落住民や棚田を守る会等によって、「田直し・ミズアテ・田植え・水落とし・稲刈り」等の農耕儀礼、祭事が行われる。9月下旬には、黄金色の稲穂ともぐら避けのために植えられた真っ赤な彼岸花が織りなすコントラストが見事で、日本の棚田百選にも認定されている。新川田篭(にいかわたごもり)地区は、平成24 年7月に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。

ポイント

  • 江戸時代後期から戦後の区画整理事業の影響を受けずに、等高線に沿って無理なく区分けされた約300 枚の棚田の土地所有が守られ、米作営農が継承されてきた
  • 周辺から隔絶された北向きの斜面地の中心に葛篭(つづら)川が流れ、現地を開墾する際に出土する安山岩を野面積みした石積みの棚田景観を保全してきた
  • 初夏には、竹樋を縦横に巡らせた特徴的な農耕景観がみられ、集落住民や棚田を守る会等によって伝統的な水管理、営農環境が保全されてきた

上乃裏通り

講評

 上乃裏通りは熊本の中心市街地を南北に貫くアーケード街(上通)の裏通りに位置する。当該地区は戦災を免れ、戦前の町割や築 100年以上の木造建築も多く残っていた。失われていく街並みを危惧した商店主や地元工務店らが、1987 年に古い繭蔵を県内から移築したビアレストランをオープンさせたのがまちづくりの起源となり、その後も既存の木造建築を改修した店舗が生まれ続け、各店舗は個性を活かしつつ、店舗前の小さなスペースや木々がゆるやかにつながっていく緑豊かな細街路を形成するようになった。上乃裏通りという名称は、そのような活動が実を結び始めた頃、通りのアイデンティティとして、事後的に選ばれたものである。この上乃裏通りで現在も続けられている活動は、シェアドスペースやリノベーションまちづくり、エリアマネジメントなどの言葉がまだ輸入されていなかった時代から、ゲリラ的に始められたものであった。昨年度受賞した「けやき通り」が、商店会および行政の協力による正統な都市デザインの成果だとすれば、この上乃裏通りは、異端的であると同時に、多くのまちづくり活動に参考となる規範的なものと言えるだろう。

ポイント

  • 一つの店舗のデザインが、波及的にまちづくりとして展開していったこと
  • 店舗前のスペースや植栽などが連携して、魅力的な細街路を形成していること
  • ゲリラ的なまちづくりとして、一つの規範となりうること

日々此れ地獄 わいた温泉郷と地獄蒸し

講評

 九重連山の左端、涌蓋山の麓に位置するわいた温泉郷は、岳の湯、はげの湯などの複数の温泉によって構成されている。阿蘇外輪山の北部に位置するこの地域では、温泉は当たり前のものとして生活の中に入り込んでいる。特にわいた温泉郷では、高温の蒸気が噴出しており、観光産業としての入浴だけではなく、この蒸気を用いて料理、冬の暖房、洗濯の乾燥などの日常利用や、木材の地熱乾燥などの産業利用を展開している。別府が湯煙景観として重要文化的景観に選定されているように、数えきれない温泉を有する我が国においても、大地から蒸気が湧き出す湯煙の景観は、私たちのイメージほどには多くはない。そこかしこの地面から昇る湯煙に住宅や生活景がかすんでいる、このわいた温泉郷の風景は、別府ほど観光化されておらず、いまだ大地の恵みを日常的な暮らしの中で享受していることで産まれているものである。高熱な流動体である地球の非常に薄い表面の上で暮らしている私たちは、地球のダイナミズムと共に生きていかざるを得ないということを実感させてくれる、いわば原初的な風景ということができるだろう。

ポイント

  • 典型的であると同時に希少なものでもある湯煙景観
  • 料理や暖房、木材の乾燥など、暮しの必然から温泉が利用されている風景
  • 地球のダイナミズムと共に生きていくことを実感させてくれる風景

宮崎の大根やぐら

講評

 宮崎市田野町周辺の冬の風物詩である大根やぐらは、規則正しく並んだ三角形の直線的なフォルム、大根の白と緑のコントラストが美しく、冬の田園風景に彩りを加える巨大なオブジェのようである。

 この地では、黒ボク等の多い肥沃な火山性土壌を活かし、昭和26年から「干し大根」の生産が盛んである。冬季に鰐塚山から吹き下ろす乾いた北西風「鰐塚おろし」に大根をさらし天日干しするため、高さ・幅約6m、長さ約50 ~ 100m の巨大なやぐらが約300 基も立ち並ぶ。地元産の竹を用い、雨や霜を防ぐシートを挟む構造とすること、両側にびっしりと大根を並べること等、風土に合わせて工夫されており、宮崎ならではの気候・土壌・地形の恵みを受け、伝統製法で生産される干し大根は高品質である。

 巨大なやぐら掛けの作業は地域の農家等が共同で行い、熟練の技術が必要である。一時は営農者の高齢化等により存続が危ぶまれたが、2017 年に産学官民が連携し農業遺産推進協議会が設立され、大根やぐらを中心とした伝統的な営農体系を守る活動が始まり、子どもたちの営農・食文化の体験学習、学生の就業支援等も行われている。

 宮崎の風土を活かした伝統的な営農により維持される大根やぐらの風景が、地域の誇りとして次世代に受け継がれることを期待し顕彰したい。

ポイント

  • この地特有の風土を活かした伝統的な食文化とともに、機能的で美しい風景が維持されていること
  • 失われかけたこの風景が地域資源として再認識され、次世代に受け継ぐ活動が始まったこと
  • 本顕彰に、これからの地域活動の促進効果を期待すること

第2回 風景デザインアワード 講評|2019

東彼杵の農業景観

講評

 東彼杵町の、大村湾からやや内陸に入った場所に発見された、無名ではあるが、茶畑、段畑、周辺の山林による深み・質感の異なる緑と、ため池の青の織り成すコントラストが非常に美しい風景である。悠々と広がる茶畑と段畑に、ため池がアクセントとなり、余裕をもって山の中腹に位置しており、どこか高級感漂うこの風景は、九州の美しいユニットとしての可能性を感じさせ、規範的風景の発見につながるような意義をもっている。しかしながら、この丁寧に手入れされ、自然と人の営みのバランスが取れた関係から生まれた素晴らしい風景は、高齢化等により、今後失われていくかもしれない風景といえる。将来にわたり、人の手によりこれらの農地とため池が維持され、この風景が失われることのないよう、この風景の保全と持続の支援となるべく、顕彰したい。 

ポイント

  • 無名の風景の発見
  • 悠々と広がる茶畑と段畑、アクセントとなるため池のユニットとしての美しさ
  • 風景の保全と持続の支援

文責:国生昌美


けやき通り

講評

 福岡市のけやき通りは、天神地区から西へ向かう国体道路(国道202号)の警固交差点から護国神社までの約800mの区間を指す。通り沿いには、洒落た店舗が並ぶ、福岡でも人気の高い目抜き通りである。しかし、けやき通りは当初からこのように計画されていたわけではなく、ケヤキやカエデ、山桜などが混植されていた街路樹をケヤキで統一したのは、1983(昭和58)年のことであった。この通りにおいて特筆すべき点は、民間が主体の継続的なまちづくり活動である。まずは、現在の通りのイメージの基礎を形づくった「警固・赤坂・六本松・けやき通り商店会」(1984年設立)の活動。その後、バブル崩壊などの社会変動による低迷からの脱出を図った「けやき通り発展期成会」(1993年設立)の活動が続く。期成会は、道路管理者と協働して街路の景観整備を推進するだけではなく、緑の管理なども自ら行うとともに、新規の建築に対してけやき通りの魅力を高めるために設計協議を行い、セットバックや緑化の充実を促すなどの活動も行なっている。けやき通りは、都市の骨格として並木による明快なイメージを形成し、住民によって魅力が肉づけされていくという点で、まさに都市デザインの規範である。

ポイント

  • けやき並木によって、都市の骨格としての明快なイメージが形成されたこと
  • 住民による継続的な活動によって、そのイメージが維持されるだけではなく、より魅力的に肉づけされていっていること
  • ハード、ソフトともに、都市デザインの規範として位置づけられること

文責:星野裕司


やまなみハイウェイ

講評

 大分県別府市を起点に、熊本県阿蘇市一の宮を終点とする九州横断道路の一部または全体をやまなみハイウェイと呼ぶ。やまなみハイウェイは、別府の観光開発に尽力した油屋熊八が1921(昭和2)年に掲げた「九州大国立公園実現提唱」を受け、1931年に大分県、熊本県、長崎県の知事らが「九州横断国際遊覧大幹線」として構想された。戦後1948年に「横断道路建設期成同盟」ができ、1951年別府国際観光港から道路改修が始まった。1964年6月に部分開通、10月30日に有料道路別府阿蘇道路として開通式が行われた。1994(平成6)年6月、30年間の料金徴収期間満了に伴い無料開放された。

 別府湾から鶴見岳、由布岳を越え、湯布院から水分峠に至り、森を抜けると視界が一挙に開け、九重連山を正面に飯田高原の草原景観が広がる。九重の牧ノ戸峠を過ぎると阿蘇の大地を一望でき、阿蘇五岳の涅槃像が横たわる。阿蘇外輪山の雄大な草地を過ぎると、阿蘇の大カルデラに沿って坂を下り、阿蘇神社へと至る。やまなみハイウェイは、阿蘇くじゅう国立公園内を通る日本初のパークウェイであり、米国のオリジナルとは違う形で総意工夫がなされ、沿線の景観を保全している。阿蘇くじゅうの地域資源を繋ぎ、九州の広域連携を支え、大地の雄大さ、人々の営み、四季の移ろいを余すことなく感じられる、日本有数の風景街道である。

ポイント

  • 日本初のパークウェイとして、阿蘇くじゅう国立公園などのシステムと連動して、大地の雄大さ、四季の移ろいを感じ取ることができる景観保全の創意工夫がなされている
  • 有料道路別府阿蘇道路として開通し、30年後には無料開放され、いまなお九州の背骨として移動そのものを観光化した、広域観光を支える社会基盤施設である
  • 道守や風景街道などの取組みも盛んであり、今後も沿線一体となった環境保全、観光振興の両立が求められる、地域が主体となった景観づくりの規範的風景である

文責:田中尚人


沖縄の河川の石積み

講評

 日本でも欧州でも構わないが、伝統的な街並みが景観的に優れた調和を有しているのは、産業を含めた社会的条件によって、使用されている素材や技術が限定されていることの要因が大きい。その点で、沖縄県が河川護岸を全て地場材の琉球石灰岩で施工することを決定していることの景観的効果は非常に大きい。県管理の2級河川のため人間的な尺度を超えない低い護岸に対して割石で使用される琉球石灰岩は、そのゴツゴツとした陰影の深いテクスチャーによって沖縄らしい風景を形成している。琉球石灰岩の使用が決定された理由には、景観的な配慮とともに産業的な問題からコンクリート2次製品が高価になるというコスト上の要因も大きいと聞く。上述した護岸のプロポーションの問題や産業的な条件など沖縄特有の条件のもとに効果を発揮していると考えられるため、安直にその結論のみを他地域に応用することはできないが、まず、景観的調和にあたっては素材の選択がもっとも基礎的な課題となること、さらに、景観は地形的・地域社会的条件を如実に表現するものであること、という最も基本的なポイントを私たちに問いかける事例である。

ポイント

  • 地場産の素材使用をルール化することによって、景観的な調和の最も基本的な要件をクリアさせていること
  • 沖縄特有の条件に大きく依存していると考えられるため、他地域への応用においては入念な議論を有する
  • 景観的配慮における基本的で重要な論点を私たちに提起する事例であること

文責:星野裕司


縫ノ池湧水会

講評

 800年続く、満々と水を湛えた池の水面と池の中央にある厳島神社の木々が織りなす四季折々の美しい景観は、農業集落の規範となる風景と言える。池の水は、地下水の過剰汲み上げ等により一度は枯渇したものの、水源転換等により湧水が復活した。この間、池を愛する住民は池を見捨てずに見守り続け、復活後は植栽や近隣都市住民も参加する茶会など様々なイベント等を開催して、美しい風景を残すにとどまらず、環境美化活動の促進、近隣都市住民との交流の場に発展させた。

 この風景を守り、継承していく地域の熱い心は、800年前から途切れることなく続いているとともに、池の水の復活により一層の充実と高まりをみせた。地域の人々とともにある縫ノ池の美しい景色は、後世に残すべき「よい景観」と言えるのではないか。

ポイント

  • 農業集落の規範的美しい風景
  • この景観が、地域に根差して800年続いている歴史的価値
  • 人々が風景をつくり守るとともに、風景が人々の心を育てていると言えること

文責:西保幸


宮崎海岸

講評

 太平洋に面し、宮崎市から日向市までの約60㎞におよぶ宮崎海岸。その宮崎港から一ツ瀬川の区間はアカウミガメの産卵場であり、貴重な野生生物の生息域であるとともに、海洋レジャーも盛んに行われている。しかし10年ほど前までは、徐々に海岸線が後退し、海浜環境の劣化が続いていた。対策として市民参加の侵食対策の集まりが継続的に開催されることとなった。こうして突堤の建設と巨大土嚢の導入を含む海浜の回復対策が講じられた。その結果、海浜植生の生育範囲が海側に広がり、養浜された区域でのアカウミガメの産卵とその増加傾向が確認された。そしてなによりも、海浜の侵食によって途絶えていた、浜下りの神事が復活した。一方、かつての砂浜の規模が復元されるには、計画途中の突堤がさらに大きく拡張される必要がある。したがって宮崎海岸の十全な復活は道半ばである。しかしながら、伝統的な地域住民の慣行である浜下り神事の復活を見た現段階で、この風景の重要な転換が行われたと考えられる。この点を評価し、これからの対策に一層の弾みがつくことを期待したい。

ポイント

  • 浜下り神事が復活した段階で、この風景の重要な転換が行われたと考えられること
  • 海浜植生の生育範囲が海側に広がり、養浜された区域でのアカウミガメの産卵とその増加傾向が確認されたこと
  • 本顕彰に、これからの対策の促進効果を期待すること

文責:山下三平


玉島川

講評

 玉島川は、清らかで澄み切った水質、時々刻々形状を変える砂州など砂河川特有の風景、堤防の桜並木などの豊かな川沿いの風景を有し、春を告げるシロウオ漁、夏のアユ、秋の川ガニ(モクズガニ)漁など豊富な水産資源にも恵まれている。また、万葉集の時代から人との関係が深く、それが今日までも続いているという歴史的価値も有する。さらには、河川改修や維持管理において漁協等と連携しながらよりよい環境の保全に取り組んでいる。

 両岸に広がる農地には、みかんを栽培するビニールハウスが発達しているが、川そのものの景観を阻害するには至っていない。

 以上のことから、北部九州の平野部を流れる特徴ある河川の風景が、自然と人為の組み合わせの良好な形成と維持によって、今日まで保全あるいは形作られている良い例として評価できる。

ポイント

  • 北部九州によく見られる、花崗岩由来の砂河川の風景が保たれている
  • 清らかな水質と豊富な水産資源が今日も維持されている
  • 万葉集の時代からの人と河川とのつながりが今日まで継続している

文責:西保幸


裂田の溝(さくたのうなで)

講評

 裂田の溝は、那珂川市にある、日本書紀に記載された日本最古の農業用水路である。

 全面的に改修が行われ、一の井堰は元の姿を留めていないものの、水路は骨格を変えることなく、従来の水路形状や環境を残している部分も多く、集落の脇を流れる水路には、里川的景観が残り、四季折々の表情も豊かである。古すぎるが故に歴史的根拠資料がなく、土木遺産等にて顕彰されていないが、1,600年経っても、今なお現役の水路として活躍している、歴史的価値のある貴重な遺産である。また、環境保全の会や守る会による保全活動や、地元小学校の学習プログラムに組み込まれおり6年生が1年生を連れて現地を説明する等、地元の愛情が注がれている。改修により姿を変えてしまった部分があるものの、地域住民の研鑽により、流量、水質、生活との密着具合は変わらず、昔からそこにあり、生きている用水路である。

ポイント

  • 日本最古の農業用水路であり、歴史的価値がある
  • 1,600年以上経つ今でも、平面形状が維持されている
  • 地域住民の研鑽により、未だ水路として現役で活躍している

文責:国生昌美


遠賀川直方の水辺にかかるもぐり橋

講評

 福岡県を流れる遠賀川の水辺にはたくさんの沈下橋が現存している。この中でも、直方市の溝堀地区、直方リバーサイドパークにかかる沈下橋は、自治体や地元の方々からも「もぐり橋」の愛称で親しまれ、洪水により何度流失してもすぐに復旧される。幅約1。5m、長さ50mほどのH鋼の橋脚と木製の橋桁という単純な形式で、その上を歩くとコツコツと足音が響き、散歩や通勤通学、市民の生活に欠かせない橋である。もぐり橋は、遠賀川の雄大な景観をひきしめ、地域のランドマークとして存在する。

 もぐり橋は高欄などもなく、水面のすぐ上を歩けるため、鮎やオイカワなどの川魚や、サギやカワウ、冬には越冬する渡り鳥なども、間近で観察することができる。夏になるとこの橋から釣り竿を垂れたり、川辺に降りて水遊びをしたりする子ども達の姿が見られ、もぐり橋が、何気ない日常の風景が見られる。このようにもぐり橋は、川と地域、生き物たちと人々との関わりを直接感じることができる、直方の水辺の豊かさの象徴である。

ポイント

  • もぐり橋の造形が、自然に逆らわない河川伝統工法であり、遠賀川の大景観をひきしめ、ランドマークとしての役割を果たしている
  • 地元自治体や地域住民から親しまれ、通勤や通学にも用いられ、洪水により何度流失してもすぐに復旧される
  • 水面近くを歩くことができ、水辺の生き物と直接触れ合える場となっている

文責:田中尚人